鬱陵島

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五月二十八日の戦況 (真之の戦闘詳報より)

 二十八日黎明、前日来の蒙気払うが如く第一、第二戦隊は既に鬱陵島の南方約二十海里に達し、爾余の諸戦隊並びに前夜の襲撃を果たしたる各駆逐隊等も各航路を異にして順次後方より集合の途上にあり。午前五時に十分、本職は敵の退路を遮断する為め、麾下巡洋艦隊を以て東西に捜索列を張らしめんとする際、我が後方約六十海里に占位して北進しつつありし第五戦隊は早くも敵影を発見して東方に当たり、敵艦の煤煙数條あるを警報す。幾もなく同戦隊敵に近づきまた報じて曰く、敵は戦艦四隻(後に至り二隻は海防艦たるを知る)巡洋艦二隻より成り、今北東に向針すと。これ問わずして残敵の主力たるやあきらかなり。ここに於いて全くこの敵を包囲せり。敵は即ち五隻にして、他の一隻の巡洋艦は遙かに南方に遅れて当時その影を失す。固より敗余の敵艦已に多大の損害を負えるのみならず、我が優勢に抵抗し得べきにあらざれば、第一、第二戦隊が先ず砲火を開くや須臾にして敵艦隊司令官ネボガトフ少将はその部下と共に降意を表し、本職は特にその将校以上に帯剣を許してこれを受けたり。然るに敵艦「イズムルード」のみ降伏に先立ち、その快速を以て南方に逃れ、我が第六戦隊に遮られてまた東方に走れり。この時油谷湾より急航したる千歳もその朝途上に於いて敵の駆逐艦一隻を撃沈したる後、この他に来り会し直ちに転じて「イズムルード」に追尾せしが、遂に及ばずしてこれを北方に逸せり。


<降伏したネボガトフ艦隊(右側)と連合艦隊(左側)>


<ニコライ一世(写真右)と、真之とネボガトフが乗った短艇(写真中央)>