秋山真之「軍談」

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書名

軍談

著者

秋山真之

編集

村上貞一

出版

実業之日本社

初版

大正六年六月一日

付図

黒船江戸湾入港の絵画
真之の直筆文章の写真
その他、各章の図表

備考


 秋山真之の寄稿文や講演内容を集めた著作集。数少ない一般向きの著書とも言えます。この書籍の出版経緯について、実業之日本社社長 増田義一は序文で次のように述べています。

「海陸の軍事に関する秋山海軍少将の言説見るべきもの少なからず、少将嚮に欧州の大戦を視察して帰朝せられ必ずその着眼の尋常ならざるべきを想い、これに就き、我が国民に資するべき著述あらんことを乞えり。少将の曰く「予本来言論を好まず、唯だ稀に言わざるべからずと感ずる処を言うのみ。近時の人心日々に腐り、口筆益々多くして、志行愈々薄く、予は寧ろ書を焚き学者を抗にするの必要を感じつつある今日自ら進んで、好まざる文筆を弄するに忍びず」と。再三乞えども容れられず。仍[よっ]て少将の意見の世に表れたるものを蒐集[しゅうしゅう]して、これを上梓せんことを以てせしに、少将また曰く「予が時に触れものに感じて、偶々発露したる所見、その文拙きもその意見は後世に愧じざらんと期したるものなり。敢えてこれを拾集さるるは貴方の任意にして、予の関する処にあらず」と。ここに於いて村上貞一君に托し、君が多年抜萃[ばっすい]したる少将の言説を列叙しこれを『秋山海軍少将軍談』と名け世の軍事に心ある人々に頒[わか]つと云爾」

 真之が亡くなったのは出版の翌年なので、これが最後の著作物となってしまいました。伝記「秋山好古」の逸話集に収録されている「情理を尽くせる訓戒」というエピソードの中で、真之が大戦視察後に盛んに公演を行っていることを同郷人らが余り好ましい事ではないと考え、また好古からもその事を遠回しに諭されたようなので、仮に長生きしたとしてもこれ以降に文筆活動を行うようなことは無かったのかもしれません。
 古書市場でも流通は極めて少なく、また国会図書館でもマイクロフィッシュによる閲覧のみ可能であることから、当サイトにて2009年4月より復刻作業を行っています。近年の復刊はなく、2010年に新人物往来社の文庫本『軍談 秋山真之の日露戦争回顧録」』で「黄海海戦の回想」「日本海海戦の回想」「支那と対比して日本国民性の自覚」の3章が掲載されているだけです。


初版と増補版

 我が家にあるのは2010年に入手した増補第五版(大正六年七月十日)と2015年に入手した初版(大正六年六月一日)の2冊です。初版から六月十日再版、七月一日増補三版、七月五日増補四版、そして七月十日の増補五版とかなり早いペースで重版されています。これ以上の情報が無いので何版が最終なのか、1回あたり何部刷られたのか、どの版でどのような修正が入ったのかなどは分かりませんが、初版と五版を比べると様々な違いがあります。

誤字脱字が修正されている

 初版には誤字脱字が多く、最初の方に正誤表が付けられていますが、第五版ではその部分が全て修正されています。再版もしくは増補三版あたりで修正されたと思われます。


文頭に各章の解説を追加

 五版では、各章の文頭に編者が書いたと思われる数行の解説が掲載されています。これも初版にはなかったもので、再版もしくは増補三版あたりで追加されたと思われます。


新たに1章追加

 一番大きな違いは、五版では「戦後に於ける日本の地位及其覚悟如何」という、やまと新聞への寄稿文(約10ページ)が新たに追加されているということです。これは増補三版で追加されたものと思われます。



国会図書館収蔵版

 当初は国会図書館に収蔵されている物も初版だと思っていたのですが、近代デジタルライブラリーで見直すと発行日付は六月十二日。日付だけ見ると初版ではなさそうです。
 しかし、初版の日付「六月一日」が存在せず、よく見ると「十二日」部分も上から紙を貼っているように見えます(国会図書館での閲覧はマイクロフィッシュなので原本確認はできていません)。なお、増補第五版では「六月十日再版」「七月一日増補三版」とあり、「六月十二日」は存在していません。
 入手した初版本には正誤表がついていないことから、国会図書館が収蔵している物は、初版に正誤表をつけて、日付も貼り直した修正版のようなものではないかと考えています。