「坂の上の雲」で紹介されている二首、「春の野に若菜を摘める乙女子はなべて霞の衣きるなり」「世を捨てて深山の庵の寝覚めにも友はありけり子牡鹿の声」同様、井手真棹に和歌を習っていた頃に詠んだ古今調の歌。
櫻花今をさかりと咲くものをさそう嵐の風そつれなき
打よするなみにあつさをあらはれてうちはすゝしくやとる月かな
この頃はゆきゝになれし旅人もまよふ夏野の深草の里
しばしとて杜の木陰に立ちよればたもとすゝしき夏の夕風
風の音も身にしむあきの夕暮れにさびしくかへる海士の釣船
かれ残る野山の蟲(むし)の聲々は暮行く秋のかたみなりけり
暮れはてし秋や籬(まがき)に残るらんうつろふ色も白菊の花
たづねくる友こそなけれ山里のふせ屋さやけき月の夜此も
とことはに榮(さか)ゆる御代の例には名にたかさこの松をひかはや
過去しむかしや風もしのふらん花たち花にそよくゆふへは