「戦争論」名言集


 

☆第一篇第三章「軍事的天才」より

 

 勇気には二種類ある。個人的な危険を無視する勇気と、自分自身の行動に対して責任を負う勇気である。個人的な危険を無視する勇気はさらに二種類に分けられる。第一は個人的気質・習慣から生じ、危険に対して泰然としている勇気である。第二は名誉心、祖国愛などの感情を積極的動機とする勇気である。前者において知性は常に冷静である。後者は知性の働きを活発にするが、勢いに乗じて行きすぎることや、知性を低迷させることがある。この両者が合一した場合にもっとも完璧な勇気が生じる。

 

 精神が予期したこともないような事態に堪えるには、二つの特性を欠くことができない。第一は、このような不明瞭な事態の中にあっても、真実を照らし出す光を保有するような知性である。第二は、この光に頼って行動する勇気である。

 

 知性はまず勇気の感情を喚起し、これによって支持されなければならない。

 

 危険に際して人間を強く支配するのは、思慮よりも感情である。

 

 果断と密接な関係があるのものが沈着、すなわち精神が常に目覚めている心的状態である。予期せぬ事態を適切に処理する高度の心力は沈着にほかならない。

 

 指揮官は困難な戦況や惨状に自分自身が堪え、さらに部下にも堪えさせねばならない。部下の受ける印象、彼らの不安の念、あるいは心労を克服しようとする努力は、直接的または間接的に必ず指揮官の心に反映するのである。

 

 軍全体の無気力がそのまま将帥に重くのしかかってきたとき、将帥の胸に燃える炎、彼の精神の光明は、いったん消えるかに見えた決意の炎と、将兵の心に宿る希望の光明を再び赤々と灯さねばならない。将帥自身の勇気が将兵の勇気を再び鼓舞するのに十分でなければ、軍は将帥もろとも武人の恥を忘れた状態に堕落することになる。彼の勇気と心的諸力が戦争において克服しなければならないのは、これらの重圧である。この重圧は軍の規模が大きくなるにつれて、また指揮官としての地位が高くなるに従って増大せざるを得ない。

 

 最高指揮官についていえば、功名心を懐かなかった将帥がいたであろうか。

 

 強い情意とは、いかに激しい興奮のさなかにあっても、決して均衡を失わないことである。

 

 他人に優る確信もなく、原則に対する信頼によるものでもなく、徒に反抗的感情に動かされて他人の意見に反抗するようなことになると、性格の強さは我意に堕落する。

 

 軍人が上級の地位に達するや否や、下級の地位で示した有能な活動は不可能になるという実例は決して珍しいものではない。しかし、指揮官の地位に応じてそれぞれ活動の仕方があり、それに従って優れた業績を成就すれば有能な軍人としての名声が与えられる、という事実も指摘せざるを得ない。

 

 

☆第一篇第六章「戦争における情報」より

 

 指揮官は自分自身に対する確固たる信念に基づいて、その時々に心を脅かす見かけだけの危険に惑わされぬよう心がけねばならない。

 

 

☆第二篇第二章「戦争の理論について」より

 

 理論の本旨は考察であって学説ではない。

 

 将帥は学者であることを必要としない。

 

 戦争に必要な知識は極めて簡略であるが、この知識を実行に移すことは容易でない。

 

 知識はさらに行動の能力と成らねばならない。

 

 

☆第三篇第五章「軍の武徳」より

 

 軍の精神を培う二個の源泉があり、これらが互いに協力するときのみ、優れた精神を生み出すことができる。第一は歴戦して勝利を重ねることであり、第二は何度か極度の困苦を経験することである。将兵は後者においてのみ、自らの力をどれだけ発揮できるかを知り、また困難を克服して危険を凌いだことに誇りを持つのである。

 

 

☆第三篇第六章「勇敢」より

 

 精神的諸力の力学体系において、勇敢は用心深さと警戒心とに対立する。

 

 周到な用心深さは、単に用心深いというだけではなく、やはり芯が勇敢なのである。

 

 指揮官の地位が高くなるにつれて、卓越した精神が勇敢の介添えになり、勇敢が単なる激情の盲動として無益な行動を起こさぬように配慮する必要がある。上級指揮官は一身を犠牲にする機会が滅多にない代わりに、部下を保持し、軍の安全を計らねばならないからである。

 

 思慮分別が加わり精神の支配が主になると、勇敢は著しくその威力を失う。よって、指揮官の階級が高くなるにつれて勇敢が希有になる。指揮官の洞察力と知性は、地位の高さに比例して増大するものではない。「第一位になると光を失う者も、第二位では輝く」というフランスの格言の根拠がここにある。歴史が凡庸、あるいは優柔不断と記載しているような将軍のほとんどは、下級指揮官としては勇敢と果断によって傑出した軍人であった。

 

 

☆第六篇第二十六章「国民総武装」より

 

 ある国家が敵国に比べていかに弱小・劣勢であっても、最後の努力を惜しんではならない。さもないと、魂の抜けた国家と言わざるを得なくなるだろう。

 

 

第七篇第五章「攻撃の極限点」☆より

 

 訓練された判断力によって、攻撃の限界点を見極めることが重要である。 

 

 

☆第八篇「戦争計画」より

 

 小は大に、重要でないものは重要なものに、偶然的なものは必然的なものに依存する。この原理こそ、我々の考察を導く指針でなければならない。

 

 人生において最も重要なことは、物事を把握して判断するための立場を確立し、これを保持することである。我々は一個の立場から様々な現象を統一的に把握することができる。また、立場が常に一定不変であれば、矛盾に陥ることはない。

 

 戦争計画を立案する場合、まず敵の重心をいくつか見つけだし、可能であればこれを一つに絞る。そして、その重心に振り向ける戦力も一つの主要な行動に統一する。

 

 最初の一歩を踏み出すとき、最後の一歩を考慮することが必要である。