謀攻篇


 

百戦百勝、非善之善者也
(百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり)


 戦争の原則としては、敵を傷つけずにそのまま降伏させるのが最上の策で、敵を撃ち破って屈服させるのは次に善い策である。百戦百勝というのは優れたものではなく、戦わずに敵を屈服させるのが優れた策である。

 


上兵伐謀
(上兵は謀を伐つ)


 敵の謀略を未然に防ぐことが最も良い策であり、敵を攻撃することはもっとも悪い策である。敵を攻撃するという方法は、他に手段が無く、やむを得ず行うものである。攻撃は準備に何ヶ月もかかり、実行すると多くの損害が出る。戦闘をせずに無傷で敵を屈服させ、軍を疲弊させずに勝利を得ることが、謀略で攻めることの原則である。

 


少敵之堅、大敵之擒也
(少敵の堅は、大敵の擒なり)


 戦争の原則としては、自軍が敵軍の5倍以上の時は包囲し、攻撃する。自軍が敵軍の倍の時は分断して攻撃する。自軍が敵軍より少ない時は戦わずに退却する。 小勢で大軍と戦うのは困難である。よって、小勢なのに強気でいると、大軍の餌食になってしまう。

 


将者國之輔也
(将は國の輔なり)


 将軍は国家の助け役である。両者の関係が親密であれば国家は必ず強くなるが、そうでなければ国家は必ず弱くなる。国君は軍の事情も知らずに軍隊の進退・軍政・指揮に干渉してはならない。軍隊を乱して勝利を取り去ることになるからである。

 


知彼知己者、百戦不殆
(彼を知り己を知れば百戦して殆うからず)


 そこで、勝利を予知するのに次の五つの要点がある。

(一)戦ってよい場合と戦ってはならない場合とをわきまえている。
(二)大兵力と小兵力それぞれの運用法に精通している。
(三)上下の意思統一に成功している者は勝つ。
(四)準備を整えて、油断している敵と戦う。
(五)将軍が有能で君主が干渉をしない。
 
 したがって、相手の事情も知って自己の事情も知っていれば、百たび戦っても危険な状態にならない。相手の事情も自己の事情も知らなければ、戦うたびに必ず危険に陥る。