奥保鞏

坂の上の雲 > 登場人物 > 奥保鞏【おくやすかた】


出身地

小倉藩

生没年

1847年〜1930年

陸軍士官学校

陸軍大学校

日清戦争時

第五師団長

日露戦争時

第二軍司令官

最終階級

元帥陸軍大将

 佐幕派である主家に従って長州征伐で初陣。維新後は陸軍に入り、佐賀の乱、台湾出兵、神風連の乱に従軍した。明治10年の西南戦争では熊本籠城戦に参加し、薩摩軍の包囲を突破して政府軍と連絡をとるという活躍で勇名を馳せる。その後、連隊長、旅団長、東宮武官長などを歴任し、明治27年には第五師団長として日清戦争に出征した。
 明治37年、日露戦争が勃発すると薩長出身者が軍中枢の要職を占める中に在って、「奥だけは外せない」と佐幕藩出身でありながらもその指揮能力を買われ、第二軍司令官に抜擢される。初戦の南山攻略に於いて苦戦の中で攻撃続行を決断するなど、当時の軍司令官の中で参謀の補佐なく作戦遂行できるのは奥だけと言われるほどであった。
 戦後、急逝した児玉源太郎の後任として陸軍参謀総長を務め、明治44年には薩長出身者以外では初めての元帥となっている。

奥のエピソード

熊本籠城戦での活躍

 佐賀の乱では銃弾が胸と腕を貫通したにもかかわらず、そのまま部隊を指揮した。また、西南戦争中の熊本城攻防戦では突囲隊を率いて西郷軍の包囲を突破する時に銃弾が頬を貫通したのだが、その時も左手で傷口を押さえ、右手で軍刀を振るって指揮を執り続けたという猛将であった。その当時、奥の活躍を描いた錦絵は飛ぶように売れたという。


軍司令官はツライ

 日露戦争では軍司令官という立場上、その言動は常に控えめであった。軍の補給問題で兵站監と激しい論争になった時も自分から譲歩したのだが、その夜、副官に対して「軍司令官というのは、皆の意見に従わねばならんからツライ。だが、わしが彼らと同格の師団長だったら、あんな奴には断じて負けんぞ」と、酒を飲みながら語っていたという。


部下と苦楽を共にする

 奥は他人が自分の身の回りのことを世話する「殿様扱い」を非常に嫌がっていた。例えば従卒らが奥の長靴を脱がせようとしたときも、「それはいけない」と言って自分で脱いだ。自分のことは自分で行い、部下と苦楽を共にすることを心がけていた。


泰然自若 

 日露戦争中のある夜、第二軍司令部が敵の夜襲攻撃を受けた事があったが、参謀らが狼狽して何も出来ない状況にあっても、奥は敵弾が飛び交う中で泰然と構えていた。その後、橘周太が率いる一隊が敵を撃破して混乱が収まると、奥は参謀らに対し「諸君は座上の談に長ずるも、一旦危急の場合に臨めばその怯なるは笑うに堪えない。ただ一人、語るに足りる者は橘あるのみ」と叱咤し、周囲の者はその胆勇に驚いたという。


鈴木荘六の評価

 「如何に戦況が苦しくなっても少しも態度が変わらず、泰然自若としておられました。この点は実に敬服の外なかった。状況が非常に難しいことを報告に行っても、ただ「うん、うん」と聞いておられた。状況が分からずあのようにしているのかと思ったがそうではない。状況はよく分かっておられるけれど、一つも口に出されなかった」


何事にも礼を重んじる

 軍律以外では部下に威を示すことなく、何事にも礼儀を重んじる人物であった。年始に挨拶に来た部下が尉官であっても、必ず自分も相手の自宅に返礼に行っていた。


終始武弁を以て奉公

 明治29年に桂太郎の後任として台湾総督に推挙されたが「予は政治家となる希望は無く、終始武弁を以て奉公したい」と断るなど、終生軍政へ関わることは無かった。また権勢利欲への拘りも無く、老齢による聴力の衰えを理由に元帥辞任を願い出たこともあった(しかし、これは前例が無いことなので取り下げられた)。

酒好きの奥

出征の途上で宴会

 第二軍司令部が乗った輸送船では退屈しのぎに毎晩飲み会を開き、兵士を呼んでは隠し芸をさせていた。同行した海軍大佐上泉徳彌は、そのときの様子を次のように回顧している。
「奥司令官という人はなかなか酒好きな人で、毎晩毎晩酒を飲む。いつでも最後までお相手をするのは私だけで、落合参謀長、この人など随分飲むのだけれどもいい加減で逃げてしまう・・・。」


鶏鳴まで飲みお願う

 自宅に人を招いて食事をする際の挨拶はまず「今夕は何の風情も無いが、何とぞ鶏鳴までゆるゆるお飲み願う」であり、来客は皆この挨拶に度肝を抜かれていた。


部下と朝まで飲み明かす

 夜分に自宅を訪れた部下を捕まえては「サア、一杯飲んでいけ」と言って放さず、夜が更けて部下が「もう三時です」「もう四時です」と言っても「ナァニ、まだ早い早い」と杯を傾け続け、そのまま朝まで飲み明かすこともあった。付き合わされた部下が「閣下、とうとう夜が明けてしまいました」と言っても、「ナァニ、夜が明けても構やせん」と答えていたという。